きっかけは、友人宅で会った営業さんとの世間話からだ。
その営業さんとは世間話ができるくらいの関係で、身の回りの困りごとを聞く程度の付き合いだったのだが、「税務セミナーがあるので」と半ば無理やり誘われた。
私自身、自由になる土地も、税金に困るほどの収入も、先々心配になるような資産もない。彼女もそれは知っている。どうやら誰かを連れてこないと示しがつかないらしかった。結局、他に連れてこられる人がいなかったのか、当日は彼女が私たちの隣にずっと座っていた。
場所は県内にある大きな会議場。聞けば県南地区の支店合同開催とのことだった。会場には30人ほどだろうか。運営側は気合が入っていた。スラっとした細身の、真面目そうな営業さんばかりなのだが、その勢いは体育会系なのかもしれない。
セミナーの中身は王道だった
内容は2時間ほどの枠で、お抱え風の税理士さんの話を聞くというものだった。事務所名も大きく掲げられており、営業活動を兼ねているのだろう。話の概要はこんな感じだ。
- 次年度以降の税制改正の説明
- 具体的なパターンに落とし込んだ節税方法と効果(解決策としてはアパート経営が主体)
- その税理士さん自身が建てて運営しているアパートの紹介
厚みのある話のあと、15分の休憩を挟んで税理士への質問コーナーとフリータイム。最後に手土産をもらって退場。流れとしては非常に完成されていた。
露骨すぎる感じがなかったのは、逆に好印象だった。
会場にいたのはどんな人か
連れてこられた客の雰囲気はいたって普通だった。
60代以降のおじちゃん、おばちゃんが中心。スーツ姿はほぼいない。地主さんなのかもしれないが、夢中になってメモを取るというよりは、それぞれの感覚で黙って話を聞いている、という感じだった。
私たちもそうだったが、専属の営業さんが横に付いているのが印象的だった。
皆さん「なんかやった方がいいとは聞くけど、よく分からんからとりあえず話だけ」という温度感なのだろう。だからこそ、運営側だけが妙に熱いという独特の空気感が生まれる。
彼らの商売の本質が見えた気がした
彼らの商売はシンプルだ。
建てさせて、30年一括借り上げで囲い込む。
そのために最初の仕事は、顧客の悩み(税金問題)をいかにテーブルに乗せるか、だ。
いきなり「我が社でアパートを建てませんか?」と言えば誰でも身構える。だからワンクッション置く。
「皆さんの悩み=税金、このままだと大変ですよ」
「解決策の一つにアパート経営がありますよ」
「面倒な運営はうちが借り上げますから安心ですよ」
不安を表面化させ、解決策を一本の線で提示する。今回のセミナーは、その「問題を表面化させる作業」が非常に丁寧だった。
5年ルールの話と、語られなかった話
今回印象的だったのが、いわゆる「5年ルール」の話だ。私は知識として知らなかった。
令和8年度の税制改正で、取得から5年以内に相続が発生した貸付用不動産は、路線価ではなく時価(買った値段そのまま)で評価されるようになる。2027年1月からの適用だ。
だから「5年分を早めに動いておきましょう」というトークになる。制度自体は本当なので、説得力がある。
一方で、金利が上がっているとか、建築費が高騰しているとか、空室リスクといったネガティブな話題は一切なかった。
嘘は言っていない。ただ、都合の悪い真実は言わない。
セミナーの目的が「不安→アパートという解決策」を太く結ぶことにある以上、ノイズになる情報は徹底的に排除されるのだと思う。
アパートの横にある自動販売機の正体
アパートの横に自動販売機があり、節税効果を生むという話も聞いてきた。その種明かしも聞けたので、少し補足しておきたい。
これは昔は合法的に行われていた「自販機スキーム」と呼ばれるものだ。
本来、アパートの家賃収入は消費税法上「非課税売上」なので、建物を建てた時に払った多額の消費税は還付されないのが原則だ。
しかし、消費税には「課税売上割合が95%以上であれば、支払った消費税を全額控除できる」というルールがあった。課税売上である自動販売機を設置して課税売上を計上し、課税売上割合を95%以上にして還付を受けるという方法。同じ期間に建物の消費税という高額な仕入れをぶつけることで、支払った消費税がほとんど還付される仕組みだった。
自動販売機である必要もないのだろうが、アパート経営+自動販売機という構図は良く見た気がする。
そして、このスキームはあまりに広がったため、平成22年度の税制改正で封じ込められた。課税事業者を選択して2年間の強制適用期間中にアパート・マンションなどの調整対象固定資産を取得した場合、その後3年間は免税事業者に戻ることや簡易課税を選ぶことが禁止され、3年後に還付金を返還させる調整計算が行われるようになった。いわゆる「自販機スキーム封じ」である。
その後も金地金を使ったスキームなどが考えられたが、平成28年度改正で「高額特定資産」の特例が作られ、さらに令和2年度改正で居住用賃貸建物の仕入税額控除自体が原則不可とされ、完全にシャットアウトされた。
事実、その税理士さん自身は改正前にこのスキームで消費税を丸っと還付できたそうだ。今はもう使えない手法だが、当時の知恵比べのような話として「なるほどな」と思った。
どのビジネスも同じ
どのビジネスも、誰かの問題を解決することで対価を得る。
私の今までのビジネスは多くが受け身だったが、それらとは違い、彼らはその問題を予め表面化させるのが最初の仕事なんだな、と感じた。
税の問題なんて人それぞれ違うし、解決方法もいくつかある。アパート経営にしたって、A社以外にも選択肢は山ほどある。本来は売る、貸す、持ち続ける、別の節税を使う、と色々あるはずなのに、会場の中では見事に一つのレールだけが敷かれている。
それが彼らの王道パターンなのだろう。
ちなみに私は農家の生まれだが、今はアパート経営するだけの土地も資産もない。以前は車を売っていて、その前には注文住宅の営業になりたいと思っていた時期もある。だから余計に、営業の構造として面白く見えたのかもしれない。
誰かの話を聞くのは、経験値として悪くない。私の人生にどうプラスになるかは不明だが、マイナスにはならないだろう。
良い経験になりました。

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