続)足取りの重さと、未来の入口 娘と歩いたオープンキャンパス

娘の大学進学
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第4章:大学という“入口”に触れる

「おはようございます!」

校舎へ向かう道を歩いていると、 案内係の在校生たちが、次々と明るい声で挨拶をしてくれた。 その笑顔は作り物ではなく、 「来てくれてありがとう」と心から言っているような温かさがあった。

娘は少し驚いたように目を丸くし、 そのたびに私のほうをちらりと見た。 高校では見たことのない“歓迎される空気”に、 戸惑いと安心が入り混じった表情だった。

校舎に入ると、 コンクリートと木材とタイルが調和した、 落ち着きのある空間が広がっていた。 私立大学らしい洗練された雰囲気で、 県立の高校とはまったく違う世界がそこにあった。

受付はちょうどバス組と重なり、 人の流れが一気に押し寄せていた。 それでもスタッフの学生たちは慣れた様子で案内し、 スマホのQRコードを読み取り、 パンフレットを手渡し、 「楽しんでくださいね」と声をかけてくれる。

娘は緊張しながらも、 その言葉に小さくうなずいていた。

最初の全体説明会は、 200人ほど入る大きな教室で行われた。 学校の歴史、今日の流れ、 どんな学部があり、どんな学生が学んでいるのか。 淡々とした説明の中にも、 “ここで学ぶことの意味”が静かに伝わってきた。

そのあとは、隣の教室で模擬授業を受けた。 テーマは「働くとは何か」。 15分ごとに講師が入れ替わり、 AIと仕事の関係、 学歴の意味、 働くことと法律の視点 など、 普段の生活では触れない切り口が次々と提示された。

娘には少し難しかったようだ。 専門用語も多く、 話のスピードも高校とは違う。 それでも、 “働く”という言葉が、 ただの将来の選択肢ではなく、 “学びの先にあるもの”として見え始めたように感じた。

入試セミナーでは、 総合型選抜の多様さに私自身も驚いた。 一度聞いただけでは理解しきれないほど複雑で、 「大学にはこんなにも入り方があるのか」と思わされる内容だった。

娘も真剣にスライドを見つめていた。 まだ理解は追いついていないだろう。 それでも、 “大学は遠い世界ではない” という感覚が、 少しだけ芽生えたように見えた。

最後に学食へ向かった。 少し冷めていたが、 娘は「おいしい、おいしい」と言いながら食べていた。 その姿を見て、私はようやく肩の力が抜けた。

大学生たちが“大人”に見える理由も、 娘なりに感じ取ったようだ。 中学は市町村単位、 高校は数校の集まり、 そして大学は全国から人が集まる。 世界が一気に広がる場所なのだ。

娘はその広さに圧倒されながらも、 どこか惹かれているように見えた。

大学という“入口”に触れたことで、 娘の中にあった不安の輪郭が、 少しだけ変わった気がした。

第5章:帰り道で見えた小さな光

帰りの車に乗り込んだ娘は、 行きとはまったく違う空気をまとっていた。

朝のあの重さは、もうそこにはなかった。 代わりに、言葉にはしないけれど、 どこか柔らかいものが娘の表情に宿っていた。

「どうだった?」と聞く必要はなかった。 娘の横顔を見れば、 今日の時間が無駄ではなかったことが分かった。

大学の校舎、在校生の笑顔、 模擬授業の難しさ、 学食の温かさ、 そして“自分より少し先を歩く人たち”の姿。

その全部が、 娘の中で静かに混ざり合い、 “大学という世界”を少しだけ現実のものにしていた。

行きの車内では、 未来はただの不安だった。 選ばなければならないことが重荷で、 どの道も間違いに見えていた。

けれど帰り道の娘は、 ほんの少しだけ前を向いていた。

「少し良いな」 その一言を口にしたわけではない。 けれど、 窓の外を眺める目の奥に、 そんな気配が確かにあった。

未来はまだ不安だろう。 迷いも消えてはいない。 それでも、 今日という一日が、 娘にとって“未来の入口”になったことは間違いない。

親として、 その小さな変化を見届けられたことが、 何よりの救いだった。

人は一気に変わるわけではない。 大きな決断も、 突然できるわけではない。

けれど、 今日のような一歩が積み重なって、 いつか娘自身の力で未来を選べる日が来る。

その日まで、 私は何度でも振り返り、 娘がついてきているか確かめながら、 同じ道を歩いていこうと思う。

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