最近、少し古い時代のグラフィックボードを集めて遊んでいる。
当時としてはベストセラーだった名機や、高嶺の花だったフラッグシップまで様々だ。目的は単純で、PS4世代の名作ゲームたちを、当時のグラボとスペックでどこまで動かせるかを楽しむためだ。
しかし、そうして色々なカードを収集し、検証を重ねていく中で、はっきりと目に見える「明確な断層(境界線)」が存在することに気づかされた。
それがDirectX 12 Ultimate(Feature Level 12_2)の壁だ。
ネットでグラボの世代交代について調べると、よく「RTXじゃないとダメ」「AIコア(Tensorコア)が無いと厳しい」といった言葉を目にする。しかし、ゲームを「起動して遊ぶ」という本質において、決定打となるのはそこではない。AIコアの有無はDX12 Ultimateの必須要件ですらないのだ。
グラボたちの生死を分ける本当の分水嶺は、「メッシュシェーダー(Mesh Shader)」に対応しているかどうかだった。
1. DX12 Ultimate が求める「4つの条件」とメッシュシェーダーの壁
DirectX 12 Ultimateを名乗るためには、以下の4つの技術規格をハードウェアレベルで満たす必要がある。
- DirectX Raytracing (DXR) 1.1
- Mesh Shader(メッシュシェーダー)
- Sampler Feedback
- Variable Rate Shading (VRS)
この中でも、現代のヘビー級ゲームにおいて最も冷酷に作動しているのがメッシュシェーダーだ。
これは、従来の「頂点シェーダー ➔ ジオメトリシェーダー」という複雑な描画パイプラインを根本から置き換え、大量のポリゴン処理を爆速化する技術である。問題なのは、この機能に対応していない世代のGPUは、ドライバやソフト側の工夫程度では簡単に誤魔化せないという点だ。動かすためには、GPU内部の演算回路そのものを根本から作り直す必要があった。
2. なぜ GTX 1080 は動いて、VEGA 56 や RX 5700 XT は撃沈するのか
私がこの「規格の壁」を突きつけられ、初めて打ちのめされたのが『モンスターハンターワイルズ』のベンチマークだった。そして同時に、こここそが自作PC好きとして最も興味深いポイントでもある。
各カードの立ち位置を並べてみると、実におかしな逆転現象が起きていることがわかる。
- GTX 1080 / 1080 Ti (Pascal世代)
- Feature Level 12_1。ハードウェアとしては非対応だが、NVIDIAの意地とも言えるドライバー側の粘りと、ゲームエンジン側の旧パス救済によって、重いながらもギリギリ起動して動いてしまう。職人芸によって命を長らえさせられている、まさに「しぶとい記念碑」だ。
- RX VEGA 56 / RX 580 (GCN世代)
- Feature Level 12_1。問答無用で非対応。アーキテクチャの世代として古すぎた。
- RX 5700 XT (RDNA 1世代)
- 描画パワーだけで言えばGTX 1660 Superなどを遥かに凌駕する。それなのに悲しいかな、同じ12_1止まりのためメッシュシェーダー非対応で起動すらできず散る。
そして、最も皮肉なのがこのカードだ。
- GTX 1660 Super (Turing世代)
- レイトレーシング用コア(RTコア)は無く、AIコアも載っていない。しかし、Turingアーキテクチャのおかげでメッシュシェーダーのハードウェア命令に対応している。だからこそ入場条件をクリアし、最新ゲームのゲートをあっさりと通過してしまうのだ。
ベンチマークのスコア上は、大排気量の「旧世代マッスルカー(5700 XT等)」の方が圧倒的に速い。それなのに、入り口の環境規格(メッシュシェーダー)で一発アウトになり、入場すら断られる。
まるで「走らせたら爆速だが、最新の排ガス規制に引っかかったので新車登録できません」と言われているような、強烈な断層がそこには存在していた。
3. モンスターハンターワイルズに見る、AMDの悲劇
この断層を象徴していたのが、まさに『モンスターハンターワイルズ』を巡る騒動だった。
初期の公式動作要件には、最低ラインとして「RX 5600 XT」の名前が記載されていた。だからこそ、上位モデルである「RX 5700 XT」を持っているユーザーは「自分の方が上なのだから当然動くはずだ」と信疑わなかった。実際、ベータテストの段階では、旧世代のRX 580等でも「一応動いた」という報告が散見された。
おそらく開発側も、最初は12_1環境向けの互換用描画パスを残し、対応幅を広げようと試行錯誤していた名残りだったのだろう。
しかし、製品版に向けて最適化と高速化が進むにつれ、開発の重荷となる古い互換パスは削ぎ落とされていったと考えられる。その結果、動作環境はより現代的なスペック(RTX 2060 Super / RX 6600以上など)へ実質的にシフトし、RDNA 1以前の世代は完全に置き去りにされてしまった。
一年前、私がVEGA 56で起動画面すら拝めずに「マジか……」と萎え落ちしたあの感覚の正体は、まさにこの技術的淘汰の波そのものだったのだ。
4. これからは「レトロ枠」と愛おしむ時代へ
メッシュシェーダーを必須とするゲームは、今後増える一方だと言われている。
「重いか軽いか」「設定を下げれば遊べるか」という段階はすでに終わった。これからは「APIの規格で足切りされ、根本的に動かない」という時代がやってきたのだ。
だからこそ、もう最新ゲームのフレームレートでカードの価値を語るのはやめて、自分の中で「レトロ枠グラボ認定」をしてやるのが正しい向き合い方なのだろうと思う。FF14ベンチやドラクエベンチのスコアに一喜一憂するフェーズは過ぎ去ったのかもしれない。
RX 5700 XTも、VEGA 56も、GTX 1080 Tiも。
ベンチマークの数値の上ではまだまだ現役で戦えるパワーを持ちながら、時代の急激な変化によって入場を断られた、美しくも切ない記念碑たち。
そう思い直した瞬間、棚に飾られたグラフィックボードの一枚一枚が、単なる中古パーツではなく「ひとつの時代を駆け抜けた歴史の証人」に見えてくる。そして同時に、「このカードたちが最も光り輝いていた時代のゲームで、存分にぶん回してやりたい」という愛おしさが湧き上がってくるのだ。
そんなことを考えながら、私は今日も棚に並んだグラボたちを眺めている。
ちなみにこの記事は、富士通Esprimo D588にQuadro P2200を刺した、立派なレトロ枠PCで書いています。よく働いてくれています。


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