未来を信じなかったから、私は固定金利を選んだ

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住宅ローンの話になると、SNSではいつも「変動か固定か」で空気がざわつく。 長い低金利の時代、変動金利が“正解”のように扱われ、 固定金利を選んだ人はどこか慎重すぎるように見られていた。

私もこの10年、変動組より毎月数千円多く払ってきた。 得をしてきたわけではない。 むしろ、10年経ってやっと時代が追いついただけだと思っている。

それでも、あの数千円は無駄ではなかった。 今日のこの安心感のため、 金利ニュースに振り回されない心のゆとりのために払っていた“保険料”だった。

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変動か固定か──なぜこの論争は終わらないのか

住宅ローンの話題は、なぜこんなにも人の感情を揺らすのだろう。 SNSを眺めていると、変動金利派と固定金利派が、まるで宗教論争のようにぶつかり合う。

そこには、単なる金利の話ではなく、 「自分の人生をどう見通すか」 という価値観の違いがあるからだと思う。

長い低金利の時代、空気は圧倒的に変動寄りだった。 銀行もハウスメーカーも変動を勧め、 雑誌やコメンテーターも「金利は上がらない」と語る。

固定金利を選ぶ人は、どこか慎重すぎるように見られていた。 毎月数千円高くなるのだから、数字だけ見れば“損”に見えるのも無理はない。

ただ、金利の話はいつも「数字の損得」に矮小化されがちだ。 本当はもっと複雑で、もっと個人的で、もっと生活に根ざした選択なのに。

固定金利で払っていたのは“安心”という名の生活基盤

私はこの10年ほど、変動金利組より毎月数千円多く払ってきた。 もし当時の私が「固定です」と言えば、 「もったいない」と思われても不思議ではない。

けれど、私にとってその数千円は単なる金利差ではなかった。

  • 毎月の支払いが読める
  • 金利ニュースに振り回されない
  • 家計の見通しが立てやすい
  • 生活の“揺れ幅”を小さくできる

これらは数字では測れない価値だ。

生活というのは、思っている以上に“揺れ”に弱い。 収入が少し減っただけで、心の余裕は大きく削られる。 逆に、支出が安定しているだけで、生活は驚くほど落ち着く。

私はその落ち着きを買っていた。 未来の不安を家計から切り離すための、 いわば保険料のようなものだった。

賃金上昇を信じられなかった理由──私の人生の前提

私は昔から、賃金が右肩上がりに増えていく未来を信じられなかった。

景気が良くなれば給料も上がる。 年齢を重ねれば収入も安定する。 そんな前提を、自分の人生には置けなかった。

氷河期世代という言葉を使うつもりはない。 ただ、私自身の感覚としては、仕事も収入もどこか不安定で、 何かあるたびにリセットされるような心もとなさがあった。

「頑張れば報われる」 「続けていれば上向く」 そんな未来像を素直に信じられなかった。

だから住宅ローンを考えるときも、 “今いくら安いか”より“将来いくらで固定できるか”のほうが大事だった。

これは慎重さではなく、 「自分の人生の前提がそうだった」 というだけの話だ。

73歳まで続く支払いをどう見通したか──老後の自分との対話

私の住宅ローンは73歳まで続く。 この数字を見たとき、私は未来の自分と対話する必要があった。

  • もし収入が増えなかったら
  • もし働き方が細っていったら
  • もし年金に近い水準で暮らすことになったら
  • もし健康が揺らいだら
  • もし家族の状況が変わったら

そのときでも払える額にしておく必要があった。

住宅ローンは、単なる金融商品ではない。 「未来の自分が背負い続ける生活の重さ」 そのものだ。

だから私は、未来に期待しなかった。 期待しないほうが、生活は安定する。 期待しないほうが、人生は壊れにくい。

固定金利を選んだのは、得をしたかったからではない。 未来に期待しなかったからだ。

変動金利を選んだ人が合理的だった時代背景

誤解されたくないのだが、当時の空気からすれば変動金利を選ぶのは自然だった。 実際、長いあいだ金利は上がらず、変動を選んだ人たちは固定より低い返済額で過ごしてきた。

銀行もハウスメーカーも変動を勧め、 雑誌やコメンテーターも変動寄りの論調が多かった。

つまり、変動金利を選んだ人たちは、 その時代の合理性に従っていた にすぎない。

だから今になって「固定が正しかった」と勝ち誇るつもりはない。 あの時代に変動を選んだ人たちは、十分合理的だった。

ただ、金利が上がった今になって見えてきたのは、 固定金利を選んだ人間は、少なくとも金利上昇への不安から距離を取れていたということだ。

固定に逃げたくても、もう遅いという現実

最近、変動金利でローンを組んだ友人が、 「すでに毎月の支払いが数千円増えた」と話していた。

では今から固定に借り換えればいいのかというと、そう簡単ではない。 変動は据え置きでも、固定金利のほうが先に上がってしまい、 借り換えの逃げ道はかなり狭くなっている。

結果として、そのまま維持するしかない人も多いだろう。

そういう話を聞くたびに、 私が固定金利で払い続けてきた数千円は、やはり“安心料”だったのだと思う。

希望ではなく、諦めから選んだ固定金利──それでも守りたかった生活

私はこの10年、変動金利組より少し高い支払いを続けてきた。 けれどそれは無駄ではなかった。 未来の不安を家計から切り離すために払っていたのだ。

住宅ローンの選び方に正解はない。 ただ少なくとも私にとって固定金利は、 金利の損得を競うためのものではなく、 人生の見通しを少しでも確かなものにするための選択だった。

今だから言える話ではある。 金利が上がった今だからこそ、そう見える部分もあるだろう。

それでも振り返ると、あのとき固定を選んだ自分の中には、 未来を楽観しない冷めた感覚と、 それでも生活だけは守りたいという切実さが確かにあった。

希望ではなく、諦めから選んだ固定金利。 けれどその諦めこそが、私にとってはいちばん現実的な判断だったのだと思う。

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