気づけば、メルカリやSNSで、異様に安い果物や野菜がベトナム語交じりで出品されているのを目にするようになった。
「え? これ、普通の相場の半額以下じゃないか?」
「なんでベトナム語で書かれているんだ?」
そんな違和感を覚えたことはないだろうか。
私は最近、この現象がただの“格安販売”ではなく、日本の外国人労働者制度が生んだ歪みの“最終出口” のように見えてきた。
今回は、その違和感を掘り下げてみたい。
メルカリで見える“異変”
最近、フリマアプリを眺めていて気づくことがある。
ベトナム語で書かれた出品が、明らかに相場より安い価格で大量に販売されているということだ。
品目は果物や野菜、米など。いずれも日本で生産されたものが多い。
「なぜベトナム人が、こんなに安く農作物を出品できるのか?」
普通に考えれば、日本人が同じものを出品するよりコストがかかるはずだ。言葉の壁もある。流通経路も限られる。
しかし現実は逆だ。
彼らは日本人より安く、そして大量に出品している。
この違和感に気づいたとき、私は直感した。
この背後には、日本の外国人労働者制度が生んだ“歪み”があるのではないか。
企業が「安い労働力」を求めた結果
この話をする前に、ひとつ確認しておきたい。
問題はベトナム人や外国人個人ではない。彼らはその制度の中で生きているだけだ。
問題は、日本人より外国人を雇う方が企業にとって合理的になる制度そのものにある。
実際、技能実習生の受け入れが拡大するにつれて、現場ではこんな声が聞かれるようになった。
- 「もう日本人は雇えない」
- 「外国人枠をもっと増やしてほしい」
なぜか。
最低賃金が上がるほど、企業は外国人労働者を欲しがるという逆説が起きているからだ。
社会保険料の扱いの違い。帰国時の脱退一時金による実質的な負担軽減。外国人雇用に紐づく補助金。そして転職の自由が制限されているがゆえの“辞めなさ”。
これらが組み合わさると、「日本人を最低賃金で雇うより、外国人の方が安くて辞めない」という構造が生まれる。
企業は合理的に動く。差別意識ではない。ただ制度が生んだインセンティブに従っているだけだ。
大量失踪という“異次元”の現実
では、その構造が何を生んでいるか。
年間約1万人の技能実習生が失踪しているという事実だ。
2023年には約9,700人。過去6年間の累計では約4万7千人に上る。
ベトナム人実習生に限れば、この10年で約10倍に増加し、失踪者の約60%を占める。
これはもう「制度の不備」のレベルを超えている。
彼らはなぜ失踪するのか。
法務省の調査では、失踪原因の実に約67%が「低賃金」に関するものだった。
彼らの多くは来日前に50万〜150万円もの借金を背負い、「日本で稼げば返せる」という期待で来日する。しかし実際の手取りは平均12万円程度。想定よりはるかに少ない。
しかも技能実習制度では原則として職場の変更が認められていない。
つまり、給料未払いやハラスメントがあっても、逃げ道は「失踪」しかないのだ。
逃げた先で待っているもの
失踪した彼らはどこへ行くのか。
多くはFacebook上で形成された「ボドイ(兵士)」と呼ばれるベトナム人コミュニティに頼る。そこで不法就労の紹介を受けるが、同時に窃盗団に加わったり、盗品を卸す側に回るケースも少なくない。
実際に、以下のような事件が報じられている。
- 神奈川県で技能実習先から失踪したベトナム人男性らがドラッグストアでの窃盗事件で逮捕され、背後に盗品を捌く外国人組織の存在が疑われた。
- 2025年には、技能実習生として来日したベトナム人グループが全国のドラッグストアで化粧品や医薬品を万引きし、盗品をベトナムへ送金していた疑いで摘発された。
- 兵庫県警も同様に、労働先から逃亡したベトナム人男女がアプリを通じて指示された医薬品などを盗み、総額約1760万円もの被害を確認している。
そして、盗まれた農作物や商品が、メルカリやSNSでベトナム語を使って安価に販売される。
こうして、一連の“負の連鎖”が完成する。
誰が被害者で、誰が加害者なのか
ここで難しいのは、この連鎖の中に「純粋な悪」がほとんどいないことだ。
- 企業は制度に従って合理的に外国人を雇っただけだ。
- 技能実習生は低賃金と過酷な環境から逃げただけだ。
- メルカリで安い果物を買う消費者は、ただお得な買い物をしただけだ。
しかし、その積み重ねが現実に農家を廃業に追い込み、日本人の賃金を下げ、若者の未来を奪っている。
彼らは「加害者」である前に「被害者」でもある。
そしてその制度を作ったのは、私たちが選んだ政治だ。
メルカリの対応と警察の限界
プラットフォーム側も、この問題に無関心ではない。
メルカリは規約で盗品出品を禁止し、AIによる監視や警察との連携を謳っている。しかし、「盗品かもしれない」という疑いだけでアカウントを停止することは、民間企業には難しい。
なぜなら、それは“確証”ではなく“疑い”だからだ。間違って停止すれば、出品者とのトラブルになる。
そして警察もまた、「民事不介入」の原則と捜査リソースの限界から、個別の窃盗事件にまで手が回らないのが実情だ。
「少し捕まえたところで」焼け石に水。毎年約1万人が新たに失踪している現実を前に、摘発だけではどうにもならない。
本当に問われるべきは「制度」そのもの
ここで私は、最初の問いに戻りたい。
「メルカリでベトナム語の果物が安く売られている」という現象は、「外国人が悪い」という話ではない。
これは、日本人より外国人を雇う方が合理的になる制度が生み出した、避けられない帰結の一つに過ぎない。
2027年には、現行の技能実習制度に代わり「育成就労制度」が導入される予定だ。一定条件下での転職が認められ、失踪の根本原因の一つが解消される可能性がある。
しかし、支援団体からは「名前が変わっただけ」との懸念も強い。
本当に問われるべきは、
- 制度が生む「安さのインセンティブ」をどう是正するか。
- 外国人労働者が「搾取される側」から「対等な労働者」になるための環境をどう整えるか。
- その結果として、日本人の賃金と労働環境をどう守るか。
この視点を欠けば、メルカリ上の違和感は消えないし、農家の悲鳴も、失踪者の悲劇も、なくならないだろう。
最後に ── 見て見ぬふりができない風景
私はこの問題を、外国人を責めるために書いているのではない。企業を非難するために書いているのでもない。
ただ、制度の積み重ねが日本を壊しているという事実を、見て見ぬふりはできない。
街の喫茶店で働く外国人の姿。工場で黙々と働く実習生の背中。フリマアプリで安価に流れる農作物。
それらはすべて、「安さのインセンティブ」が生んだ風景だ。
そしてその風景の先に、日本人の賃金が上がらない国、若者が未来を描けない国、地方が衰退する国が待っている。
メルカリの一件は、その風景の“窓”に過ぎない。
私たちはその窓を覗き込みながら、制度そのものを問い直すことをやめてはいけない。
それが、この歪んだ構造を変える唯一の道だと、私は信じている。

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